認知症とは、何らかの原因によって記憶力や判断力が低下し、認知機能が低下して日常生活に支障が出ている状態のことです。認知症といえばアルツハイマー型認知症を思い浮かべる方が多いかもしれません。アルツハイマー型認知症はとくに多く見られる認知症で、多くの方を悩ませています。ただし、認知症=アルツハイマー型認知症ではありません。認知症にはほかにもいくつか型があり、人によってどの型の認知症を発症しているのかが異なります。
近頃では、認知症のように生活に支障をきたすことはないほどの軽い症状が認められる、MCI(軽度認知障害)も注目されるようになりました。MCIとは、日常生活に支障はない程度の物忘れがあるものの、認知症とは診断できない状態のことです。MCIの方のうち、年間で10~15%は認知症に移行すると言われているため、注意しなければなりません。
厚生労働省の調べによると、2012年時点で認知症がある65歳以上の方は15%、全国に約462万人の患者さんがいると言われています。65歳以上の約7人に1人は認知症なのです。MCIも含めると、約4人に1人がなんらかの症状を抱えていることになります。
日本では高齢化が進んでいるため、認知症の患者数はさらに増えていくでしょう。2025年には675~730万人にまで患者数が増え、65歳以上の約5人に1人が認知症を患う時代が来ると言われています。
認知症の症状には、「認知機能低下」と「行動・心理症状(BPSD)」の2種類があります。
「認知機能低下」は、脳の神経細胞が破壊されることで現れる記憶障害や判断力の低下などを中心とする症状のことです。おもに、次のような症状が見られます。
「行動・心理症状(BPSD)」とは、介護する方が不適切な対応をしたり、ご本人が強いストレスや不安などを抱えたりすることで発症する症状です。「認知機能低下」とは異なり、必ず現れるわけではありません。症状としては、次のものが見られます。
認知症の治療には、おもに「薬物療法」と「非薬物療法」があります。
薬物療法は、認知症の症状の進行を緩やかにする治療が中心です。認知症の種類によっては、脳内のアセチルコリンが減少している場合があります。アセチルコリンを直接補っても効果はないため、薬を使ってアセチルコリンの分解を防ぐ方法を取ることが一般的です。
このほかに、グルタミン酸の働きを調節する薬が使われる場合もあります。脳梗塞が原因で認知症を発症した場合は、再発を防ぐために血液をサラサラにする薬を使うことも多いです。不安感が強かったりうつ病の症状が出たりしている場合は、これらの症状を抑える抗不安薬や抗うつ薬なども使われます。
非薬物療法では、薬を使うことなく認知症の改善を目指していきます。音楽療法や芸術療法、アロマテラピーや学習療法など、非薬物療法の種類はさまざまです。音楽や絵にふれることで感覚や認知への働きかけを行い、脳を活性化したり精神を安定化したりします。
患者さんが自分一人でできることを増やすのも大切です。お箸が使えなければスプーンやフォークを用意し、衣類の着脱が難しいようでしたら前開きの服を着るようにします。自分でできることを増やしてあげると、自信の喪失を防げるので行動・心理症状(BPSD)の改善や予防にもつながるのです。
認知症と物忘れ、MCIは混同されることがありますが、それぞれ特徴が異なります。
認知症 | 物忘れ | MCI | |
原因 | 脳の神経細胞の変性や脱落、脳血管の障害 | 年齢による脳の老化 | 脳の神経細胞の変性や脱落、脳血管の障害 |
症状 | 体験したことそのものを忘れる(例:朝ごはんを食べたのに食べてないと言う) | 体験したことの一部を忘れる(例」朝ごはんを食べたことは覚えているけど何を食べたか思い出せない) | 体験したことの一部を忘れる(例」朝ごはんを食べたことは覚えているけど何を食べたか思い出せない) |
症状の進行 | 少しずつ進行する | あまり進行は見られない | 進行せず健常に戻ることもあれば、認知症に進行することもある |
自覚 | 自覚症状が薄いことが多い | 忘れっぽくなっていることを自覚している | 忘れっぽくなっていることを自覚していることが多い |
日常生活 | 支障が出る | 支障はない | 支障が出ることもあるが、工夫しだいで生活できる |
認知症にはいくつか種類があります。ここでは、代表的な4つの認知症について詳しく見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症 | レビー小体型認知症 | 脳血管性認知症 | 前頭側頭型認知症 | |
原因 | アミロイドβの蓄積や神経原繊維変化が起こることで脳の神経細胞が障害される | レビー小体というたんぱく質の蓄積により脳の神経細胞が障害される | 脳梗塞や脳出血などにより脳細胞が障害される | 前頭葉と側頭葉の神経細胞が障害される |
初期症状 | 物忘れ | 幻視、妄想、パーキンソン症状など | 物忘れ | 自発性の低下、同じ行動を繰り返す |
特徴的な症状 | 物忘れ、失語、失認など | 幻視、妄想、パーキンソン症状など | 認知機能障害、手足の麻痺など | 行動の変化、言語障害など |
認知症は、症状の進行を抑えるためにも、できるだけ早く異常に気づいて治療を始めることが大切です。周りが可能な限り早く認知症のサインに気が付き、適切な治療が受けられるようにしましょう。
本人が医療機関を受診することが難しい場合は、まずは地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、専門機関につながり、個々のケースに合った援助や医療の提供を受けることが可能です。
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