強迫性障害とは、頭に浮かんだある考えが付きまとい、その考えによって生まれた不安を取り除くために何度も同じ行動を繰り返してしまう状態のことです。
頭に浮かぶ考えのことを強迫観念、それによって起こる行動のことを強迫行為と言います。意思に反してある考えが頭に浮かび、それがつまらない、ばかばかしいことだと分かっていても考えが頭から離れません。
この強迫観念により、「手が汚れているのではないか」と手が荒れるまで手洗いを繰り返したり、「戸締まりをしたか不安」と何度も確認を行ったりします。以前は不安障害の一種とされていましたが、現在は強迫性障害という別の病気として認識されるようになりました。
強迫性障害になる明確な原因については、まだ明らかにされていません。現時点では、遺伝と環境の2つの要因が絡み合うことで発症すると考えられています。遺伝といっても、強迫性障害がある親から生まれた子どもが必ず発症するというわけではありません。強迫性障害になりやすい素質をもった方が、発症しやすい環境で過ごすことが要因になりやすいとされています。
また、性格傾向も要因の一つです。几帳面で神経質であり、こだわりが強い性格の方は強迫性障害になりやすいと言われています。発達障害やチック障害がある方が発症しやすいのも特徴です。
強迫性障害の症状には、おもに次のようなものがあります。
手や物が汚れているのではと過度に不安になる症状です。「まだ汚れているのでは」「細菌がついているのでは」と不安になり、何度も手洗いや入浴をします。不潔と思うものに触れるのを嫌がり、ドアノブや手すりを触れなくなってしまう方も多いです。
「もしかしたら誰かに危害を加えたかもしれない」と不安になり、ネット記事やニュースを見て自分のことが取り上げられていないか確認する症状です。周りや警察に何か事件が起きていないか確認する方もいます。
ガスや火、電気などの消し忘れがないかを何度も確認してしまう症状です。繰り返し確認を行っても「もしかしたら消していないかもしれない」と思い、過剰な確認を行います。本当にガスや火がついていないか手で触ったり、指差し確認をしたりなどの症状も代表的です。
自分が決めた順番で物事を行わないと何か恐ろしいことが起こるかもしれないという恐怖にかられ、どのような状況下でも同じ手順で仕事や家事を行います。
数字に異常なこだわりを見せます。4(死)や9(苦)などの不吉な数字は必要以上に避け、幸運な数字には縁起を担ぐというレベルを超えて異常にこだわるようになるのです。階段の段数を数えながら登り、13段だと不吉なことが起こると思い不安に感じます。
物が少しでも斜めだったり左右非対称だったりすると気になってしまいます。右肩に物がぶつかったら均等にするために左肩にも物をぶつけるなど、一見すると不思議に思える行動をする方も少なくありません。
強迫性障害は、症状そのものによるつらさもありますが、それ以外にも次のようなことが問題となります。
強迫性障害をもつ患者さんは、うつ病や睡眠障害を合併しやすいことが特徴です。毎日のように強迫観念や強迫症状が続くため、精神的な疲労が溜まってしまいます。
強迫行為が出そうな場所を避ける回避行動が出ることもあるでしょう。学校や職場などを避けるようになり、日常生活に影響が出てしまうことがあります。
時には周囲を巻き込んで「本当に大丈夫?」と何度も聞いたり、家族にも儀式行為を要求したりします。自分の代わりに強迫行為を行わせることもあるため、家庭の崩壊を招いてしまうこともあるでしょう。
強迫性障害の治療は、薬物療法と認知行動療法を組み合わせて行います。
薬物療法では、抗うつ薬の一つであるSSRIを用いて症状を安定させていきます。SSRIは、セロトニンの濃度を高める効果のある薬です。すぐに効果が出る薬ではなく、2~3週間ほどで徐々に症状の改善が見られます。人によってはもう少し時間がかかることもあるため、焦らず服用を続けることが大切です。
認知行動療法では、おもに暴露反応妨害法を行います。暴露反応妨害法とは、強迫観念が出た場合でも強迫行為をしないように我慢する治療のことです。あえて汚いと思うものに触れて手を洗わずに我慢したり、戸締まりが心配でも確認しに戻らないようにしたりします。
強迫行為につながる状況にわざと身をさらすことで、少しずつ不安を少なくして強迫行為をしなくてもよいようにするのです。
強迫性障害があると、外出するのに何時間もかかってしまうということもあるでしょう。何度も入浴し、決められた手順通りに準備をしてガスや火の消し忘れの確認を行っていると、かなりの時間がかかってしまいます。そのため、通院するのが億劫だと感じている方もいるのではないでしょうか。そのような方は、ぜひ在宅医療を検討してみてください。在宅医療を活用すれば、医師が自宅まで来てくれるので何時間もかけて外に出る必要がありません。
本人が医療機関を受診することが難しい場合は、まずは地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、専門機関につながり、個々のケースに合った援助や医療の提供を受けることが可能です。