プロフェッショナルとしての姿勢を持つと同時に、
人として患者様やご家族と正面から向き合っていける人を歓迎します。
医療法人社団心清会を設立した1995年当時、精神疾患を抱える方を取り巻く状況は決して恵まれてはいませんでした。外来に来られる患者様はまだいいほうで、入院措置となるか、自宅に引きこもりご家族がぎりぎりの状態でケアしているという方も多くいました。外来と入院の中間的な受け皿がほとんど存在していなかったことにより、社会から隔絶された状態の方を生み出してしまっていたのです。
そこで精神科在宅医療の必要性を感じた私たちは、外来診療と共に精神科在宅医療をスタートさせることになりました。大それた志を持っていたというよりも、「地域に困っている人がいるから手助けに行こう」という、地域の精神保健の延長のような思いで始めたものです。
それから30年近くの月日が経ちました。かつて精神科医療に関しては、制度や関係機関のサービスも不十分でネガティブなイメージもありましたが、近年では徐々にさまざまな制度の整備もなされて患者様やご家族をサポートするためのサービスも出てきていますし、社会の捉え方にも変化が生じて来ています。
それでも、地域から私たちに寄せられる相談はむしろ増えていることから、精神科在宅医療がもっと普及され、患者様がより気軽にアプローチできるように診療圏を広げると同時に、地域に密着した精神科在宅医療を展開していく必要性を強く感じています。事実このコロナ禍のさなかでもご相談の減ることはありませんでした。
従来の医療は、医師が中心となり様々な医療スタッフがそれを支える構図でしたが、在宅医療の世界は「サッカー型医療」と表現されることもあるように、医師だけではなく看護師や精神保健福祉士、作業療法士、事務方や送迎の運転手、あるいは行政を始めとした社会資源として地域を支えている方々、そして患者様のご家族も含め、患者様の周囲の人々がしっかりと役割をこなし柔軟に連携してこそ、よいサービス提供が成立するものです。
これまで当法人では各エキスパートが力を出し合って患者様をサポートすると同時に、私にはスタッフ一人ひとりが生き生きと働き、楽しく自己実現できるような法人を目指して歩んできたという強い思いがあります。今後も今までと同様に、スタッフ各人をバックアップし、各人のよりよい環境を形作れるように、スタッフと組織を大切に育てていきたいと考えています。
この法人を立ち上げて暫くした頃、20年以上ご自宅に引きこもっている患者様とお会いすることがありました。その方は医療に掛かることも行政のサービスも受けることもできず、ご家族が藁にもすがる思いで我々にご相談にいらっしゃいました。一回、二回とその方の下に通い、三回目には患者様の方から外に出てきて私に会いに来てくれたのです。
何か特別な診察をしたわけでも、通院や外出を勧めたわけでもありません。ひとりの人としてその方と向き合い、じっくりとお話を聞いてやり取りをしただけなのです。精神科医療の現場では、医療提供側が「医師と患者」という関係性を意識するあまり、結果的に患者様が本音を言えないというケースが散見されます。
もちろん私も医師ですから、ただの雑談ではなく会話の中から病状を読み取りその後の診療につなげる努力はするのですが、それ以前に「人と人として率直に向き合いたい」「困っている人を手助けしたい」という思いを持って患者様に接することを強く意識してきましたし、スタッフにもそこは忘れてはいけないと指導しています。こうした思いを持つことから、私たちはおひとり、おひとりをきちんと訪ねて、その方やご家族と向き合ってご相談を受け、専門的な対応をしています。
私たちの在宅医療は、患者様の病状だけではなく、生活状況やご家族との関係性なども見た上でどのような医療を提供すべきかを判断するところから始めていますので、在宅医療が最適ではないと判断すれば、他の病院への外来や入院をおすすめすることもあります。当法人のケースにはなりませんので費用請求もできませんが、自分たちは地域の社会資源のひとつですから、患者様と正面から向き合っていくためには、こうした対応も当然必要だと考えています。
精神科医療には様々な職場がありますが、その中でも当法人がカバーする在宅医療という特別な領域を志す方は、それだけ強い関心や高い問題意識を持つ大変貴重な存在だと捉えています。そうした思いに応えるために、組織全体で新人研修のシステムを構築し、様々な職種の先輩たちから色々なことを吸収できる風通しの良い環境を整えることで、この場所で働くことが各人の自己実現につながることを目指しています。
その反面、しっかりとした医学的知識や技術を身に着けずに患者様に接してしまうと、それは医療サービスではなくて単に“介入しただけ”となってしまい、不用意な一言を発することで患者様の病状を悪化させてしまうリスクも十分起こりえますから、あくまでも我々はプロフェッショナルな医療サービス提供者であることも忘れないで欲しいと思っています。各人にプロフェッショナルとしての姿勢が求められますから、その分プレッシャーやストレスを感じるかもしれませんが、こうした研鑽の時期を乗り越えて、各人が自律的に対応できる段階になりますと、他の仕事では得難いような貴重な経験や人生の学びができるのです。
通常の場合、人は自分ひとりの人生しか経験できませんが、多くの患者様と長く寄り添っていると患者様の数だけ人生を追体験するように感じることができます。それはまるで映画を観ているように初めは感じるかも知れません。それどころか、私たちは治療を通して、主体的に患者様の人生に関わっていくことになりますので、それは映画以上にダイナミックな体験をすると言えるでしょう。
もちろん、治療はエンターテインメントではありませんが、我々の提供するオンリーワンと自負する「精神科在宅医療サービス」に参加することで、ご自身がオンリーワンの経験を積み、普通の仕事では学びえないような人生経験を味わってみたいとお考えの方は、ぜひ私たちの門を叩いてみてください。そんなあなたを私たちは心から歓迎いたします。
医療法人社団心清会 理事長 蒲生裕司